2023夏「短編小説を読む」講座

短編小説の案内

ショートノーティスになってしまいましたが、この夏は「短編小説を読む講座」を開講します。8月1週目の6日にスタートし、5回講座となります。今回の作品は、ワヤンが登場するだけでなく、社会文化的な背景知識がないと少し分かりにくい内容です。そのためビジュアル資料を用いるなどして補足しながら、5回に分けて一緒に読み進めていきます。

音声は、今回も著者であるSatmokoさんが朗読したものを配信します。最終日には、Satmokoさんとのオンライン懇親会を実施します。参加は任意です。作品全体についての質問だけでなく、なぜこの文章がこのようになっているのか、この単語を用いているのかなど細かいことまで疑問に思ったことを直接質問してください。インドネシア語では十分に伝えることができないかもしれないと心配な方がいらっしゃいましたら、私が間に入ります。どんな質問にもにこやかに答えていただけるので、安心してください。

短編小説の講座で紹介するSatmoko氏の作品は、これで4作目となります。受講者からは面白かった!という声をいただくものの、同時にストーリーのエンディングが分かりにくいという戸惑いの声もいただきました。予想以上にそのような感想が多いと感じているので、なぜそのように感じられるのか、改めて考えてみました。

メッセージはあるのか

皆さんは美術館や音楽会に出かけることはありますか?

美術館で絵を観たり、コンサートホールで音楽を聴いたりするときのことを思い浮かべてください。美術館で「この作品は分かりにくい」と感じる抽象画があっても、それはそれで楽しんでいると思います。音楽も同様で、例えばクラシック音楽でいえば、はじめのテーマや調に戻ってくる曲もあれば、戻ってこないので落ち着かないと感じるような現代曲もあるかもしれません。その感覚もその作品の味わいのひとつだと思います。ひょっとすると宙ぶらりんになった感覚が嫌なので、家に帰って別の曲を聴き直すこともあるかもしれません。そうだったとしても、その作品を作品として味わっていると思います。

小説も同じだと思います。面白い、不思議だ、ワクワクする、思わず背景を想像する、問題提起をしているのではないか、深読みしすぎかもしれないけれど実は別の意味が含まれているのではないか、これは一体どこへ行くことを暗示しているのだろうか、など作品を通して感じたり考えたりすることが作品を味わうということであり、美術や音楽でいうところの「鑑賞」だと思います。

もしかすると文字や文は目で追って意味が理解できるため、明確に読み取ることができるものがあると無意識に期待してしまうのかもしれません。メッセージが分かりやすい作品もあると思いますが、「別の世界に誘う手段」として「絵画や音楽ではなく短編小説で表現している」と考えると、戸惑いが減るかもしれないと思いました。というのは、分かりにくいという戸惑いは、自分が期待しているメッセージ性を掴むことができなかったという「期待と現実のずれ」なのかもしれないと考えたからです。まっさらな気持ちで読み進め、予想していなかった世界観をそのまま味わってみませんか?

インドネシアの昔話から

口承伝承のひとつに昔話とか民話とか呼ばれるジャンルがあります。私はここ数年、大学でインドネシア語とインドネシアの文化を教える講義を担当しています。今年の前期は、インドネシア語学習のほか、インドネシアの各地の民話から好きなものを選んで読んで訳すという課題を出しました。10グループに分け、各グループがひとつ選び、合計で10作品を扱いました。

対象としているのはインドネシア語を第三外国語として学んでいる英語専攻の学生なので、インドネシア語・英語併記の絵本を準備しました。学生のインドネシア語力が初心者レベルであることから、機械翻訳の使用を認め、絵本の英文も参照し、グループ内で相談しながら日本語にしてもらいました。すると、話の展開が予想を超えていたため、学生はインドネシア語⇒日本語の機械翻訳の精度を疑問に感じ、英文を確認しながら読み進めていました。

そもそもヤギが賢すぎるとか、このお姫様はこの展開だといい人になるはずでは?、なぜこの場面で主人公が自ら命を捧げることになるのか、どう考えても生まれたばかりの女の子の話だったと思うがいつの間にか竜が主人公になったなど「納得がいかないこと」を指摘しあっては読み直していました。

その様子を見て、昔、インドネシアでインタビューをしていた時のことを思い出しました。

私は大学院生の時にインタビューを中心としたフィールドワークをジャカルタと西スマトラ州で行いました。6か月で100名ほどにインタビューしました。語学力の問題ももちろんありましたが、あるテーマについて自由に話をしてもらうと話の流れが見えにくくなります。こちらが何かを知りたがっていることが分かると、今度はサービス精神が発揮されて、だんだんと話が大きくなることもありました。

インタビューをする際の注意点として、相手が話したことは相手の語り口のままメモを取るように、事前に指導されました。

  • 「あ、これは〇〇のことだな」と思っても、相手が使っている単語をそのままメモすること
  • 答えを誘導するような質問をしないこと
  • 話した内容が事実なのか、本人が話しているうちにつじつまを合わせようとしているのか確認するために必ず裏を取ること
  • まとめる段階では自分の思い込みを可能な限り排除して一連の流れを構築すること

などを指導教官から求められました。

つじつまが合わないと感じることはよくありますし、話はあちこちに広がっていくため、時間がかかる割には成果を出しにくいのですが、だからといって自分にとって理解しやすいように都合よく解釈するのではなく、まずはそのまま状況を把握するように努め、重要なポイントについては異なる視点で同じ内容を質問するように言われました。

昔話はもともとは口承伝承ですから、上記のインタビューの答えのように、つじつまが合わない展開があったとしてもそれほど不思議ではありません。それだけでなく、ここでは深追いしませんが、昔話についてはそもそも価値観の違いなどによる昔話の法則や面白さのポイントが少し異なるのだと思います。

短編小説のエンディングが分かりにくいというのは、ひょっとすると昔話と同様に、期待するエンディングの展開を超えていて、「この状態で終わりになること」に納得がいかない、つまり、つじつまが合わないと感じているのかもしれません。

ですが、今回学生たちが「納得がいかないこと」を互いに指摘し、話し合ったり、読み直しをしていたそのような時間こそが、Satmokoさんが期待する彼の作品の楽しみ方ですので、分からない場合は分からないなりにその世界観をそのまま楽しむ時間にしたいと考えています。

受講の案内

受講を希望される方は、下の「メールでお申し込み」をクリックし、受講の希望をお知らせください。受講料金の支払方法などはその後お知らせします。

開講日(日曜日):8/6, 8/13, 8/20, 8/27, 9/3

時間:10:30-12:00または11:00-12:30(受講者との調整のうえ確定します)

*開講日、開講時間につきましては、受講者数が少なければ調整することが可能です。上記の日時では全参加が難しいなど気になる方はお問い合わせください。

受講料:20,000円(税込)(テキスト、音声付き)(価格を少し見直しました)

オンライン懇親会:9/3夜を予定(参加費無料)

*参加を希望される方は7/31までにお知らせください。

*マテリアルはe-ラーニングコンテンツにて、テキストを読みながら音声再生がしやすい形で配信いたします。パソコンやタブレット、スマホなどの端末をご用意ください。

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