この講座の特徴がよく表れていると思います。
うなりながら、この回答を何度も読み返しました。
タイトルは「初級文法2」とありますが、受講者全員の「インドネシア人と今より会話のやり取りできるようになりたい」というリクエストに応じて、ZOOMセッションではそのように進めました。そういう意味では、上の2人の回答から、今回のやり方が「有効だった」と理解することができます。
相手の意図の違いを理解できた、「お腹がいっぱい」の表現を実際に使ったところその場がいい感じで収まったというのは、良い成功体験ですね。
そして、その下に書いてある「既に習得した表現であっても、インドネシア人が速いスピードで話すと理解が難しくなることが多々ある」の部分ですが、「実際の会話に近い状況での練習ができ、リスニング力や対応力が大きく向上した」とあります。「大きく」向上したかどうかはこれだけでは分かりませんが、「向上した」ことを感じたのだと思います。
これは、中学・高校時代の英語学習が語学学習のプロセスとして正しかったからだと思います。「こんなことをやっても意味がない」と不満を感じながら取り組んでいた宿題が土台となり、今、インドネシア語学習で活用できているのだと思います。
「使える英語」のために試行錯誤された中学・高校の英語の先生に感謝しましょう。また、音声教材の活用のポイントが身についているとこのような効果があると思います。
逆に言えば、他の方も、学習方法を変えるとこのような効果があると思います。
3番目は「もう少し文法の説明の時間が多い方が良かった」とあり、その理由として「時間配分が難しかったから文法の説明が少なかったのかも」と感じていらっしゃったように思いました。
語学学習について、これまでにどこかで書いていると思いますが、私が考える効率の良い学習方法について改めて説明させてください。
文法の解説を聞いて納得したり、新しい単語や表現についてメモが取れると「ちゃんと学べた」という満足感につながり、安心するのではないでしょうか?
私は「文法解説を聞いて理解しても、話せるようにはならない」と考えています。むしろ、文法的に間違っていたとしても、スピーキングの時間に、自分が知っている単語や文法表現を駆使することの方が断然有効だと考えています。文法をある程度学んだら、自分で思い切って使ってみましょう。
ただ、そのためには「場」が必要です。頭の中が真っ白になったとしても何とか言葉を紡ぎ出さねば、という緊張感が必要です。
「通訳基礎1」のアンケートの(下にスクロールして5つめの見出しの「語彙について(余談)」の部分です)のところにも書きましたが、「白黒の情報をカラーにする」ということが大事だと思います。
通訳者にとっての「白黒をカラーに」と今回の会話についてではレベルが異なると思われるかもしれませんが、情報をすっ飛ばして使えるようにする、という意味で同じだと思います。体で覚える、といってもいいかもしれません。
ダンスを例に挙げます。ある踊りをグループで踊るとします。1拍目で右手を上げ、2拍目で右手を左右に振り、3拍目で左足を前に出し、というような振付があったとします。
はじめはそれを順に覚えないといけません。でも、踊る時にいちいち体の動きを考えていたら、音やリズムに合いませんよね?
ひと通りの振り付けを頭に入れたら、必ず音楽をかけて音に合わせますよね?1回目は体が思うように動かず、練習して覚えたはずなのに「あれー?できてない」とがっかりするかもしれません。しかし、だからといって、いつまでも音楽をかけずに振付だけ練習するということはしないですよね?
それと同じで、考えて文を作っているうちは「会話」は続かないと思ってください。体で覚えるというのはそういうことです。「白黒をカラーにする」というのもそういうことです。
会話をする上では、「白黒の情報(文法)」を介さずに「カラーの情報(実際の発言)」につなげていくようにしなければ、「やり取り」になりません。ですから、話せるようになりたいのであれば、「白黒の情報(文法)」を増やすのではなく、「カラーの情報」にしていくための時間を増やさないといけません。
別の例を挙げます。例えば生け花の教室に通うとします。生け花では、基本の型やルールがあります。ですが、稽古では型やルールを学んでおしまいではなく、実際に花を生け、それを先生に見ていただき、何をどのように直すとよりよくなるのか、自分が生けた花に対してコメントがあると思います。
この花はこのように生けると良い、この枝はこう扱うと良い、という予備知識がどれだけあっても、それぞれの花の数やつき方、枝の癖、花器の形やバランスもあり、生けてみないとコメントできないことが必ずあります。そのコメントを聞くと、気づいていたけれどうまくいかなかったことや自分では気が付かなかったことが分かり、次につながります。
今回のZOOMセッションは、音楽をかけて踊ったり、花を生けるのと同じ時間でした。ですから、そこで「白黒情報」を増やしてしまうと、カラーにするために必要な時間がなくなってしまいます。情報があると安心すると思いますが、生け花の楽しさは、花を生けるところにあるのであって、そのための諸々の知識を得ることではないと思います。
ですから、時間配分の問題で文法の説明をしなかったのではなく、「体が動かないもどかしい時間」や、「実際に花を生ける時間」を経なければ「会話でのやり取りができる」ことにつながらないと考えているからです。
そうはいっても文法の質問がある場合には解説しますので、ZOOMセッションの時に遠慮せずに質問をしてください。