受講者アンケートより~2023秋「通訳基礎1」

2023秋「通訳基礎1」の特徴

定番になりつつある「通訳基礎1」です。

Aさま(フリーランス通訳者、40代)、Bさま(フリーランス通訳者、30代、男性)、Cさま(フリーランス通訳者、40代)、Wさま(フリーランス通訳者、40代)の4名が受講されました。

通訳者といっても、それぞれがの通訳分野が異なるので、メンバーにヒヤリングをしたうえでバランスを取って進めています。

参加への迷いと決め手

今回、「通訳基礎2」を修了された方が参加されましたが、内容の正確さや的確な表現など、レベルアップできることはいろいろありますので、参加することは何も問題ありません。むしろ他の参加者にはまぶしく見える面も多く、お互いにプラスとなったと思います。

受講の決め手はさまざまですね。

期待

レベルアップの必要性を強く感じていらっしゃることが伝わります。

気をつけたいこと

講座でコメントしますが、それを聞いて何を気を付けるように変化したのかを尋ねました。

多くに人に当てはまる回答もあれば、それぞれの現在の通訳力等によって異なる回答もあります。

●「思い込みで正しいと判断して訳出を疑わないということの無いようにする」というのはとても大切なことですね。

自分の弱点を自分で把握することは簡単ではありません。特に「思い込み」は思い込んでいるのですから、自分ではなかなか気がつきません。では、私は、何をきっかけに「思い込みの通訳の危険性」に気づいたのでしょうか。失礼であることは承知のうえで、しかし自分では気が付かないものですので正直にお伝えします。

私が他の通訳者の通訳を聞く場面は、①同じ通訳案件のパートナー、②インドネシア側、日本側でそれぞれ通訳者を用意している場合の相手側、③通訳者が複数人配置されている案件があります。そのほか、担当している通訳研修で通訳をしてもらった場合も含まれます。その中で気になった「思い込み」による間違いを自分の糧としています。

人が話す情報を聞くときには、自分が知っている知識を元に理解するため、背景知識が少ないと間違えて理解してしまう可能性があります。そうすると必然的に、間違った内容で通訳をしてしまうことになります。ですから、できるだけ正しい文脈で話者の意図を理解できる背景知識を持っていることが、まず重要だと考えています。

その対策として、ありきたりですが、普段から新聞を丁寧に読むこと、読書量を増やすことを提案しています。

通訳は、広く浅い知識と、狭く深い知識の両方が求められるといいますが、その通りだと思います。

●「聞き手は耳で聞いていることをイメージして」というのは、脳で処理する情報量は目で読む場合と耳で聞く場合では異なるため、私たち通訳者は、聞き手が耳から情報を得ることを念頭に置いて言葉を選ぶようにしましょう、ということです。

耳で聞いた時に紛らわしくない情報の提示の仕方を意識することは大切だと思います。また、日本語で訳出する場合は、熟語に同音異義語が多いので注意をする必要があります。

●「日本語に引きずられない」というのは、慣れればできるようになってくるものですが、どこまでが引きずられていることになるのか、自分では客観的に判断するのが難しいようです。

主語について、少し補足しましょう。日本語の特性として「主語を明示しない」ことが多いですね。「日本語の流れとして不自然になるので主語は入れなかったが、訳す際は補足してほしい」という場合もありますが、一方で「主語を明示しないまま訳してほしい」という文脈もあります。

つまり、主語は明示して訳出しないといけないもの、というわけではありません。通訳する場面で、話者はどちらを求めているのか判断する必要があると思います。必要に応じて打ち合わせの際に確認しましょう。

●「インドネシア人に伝わる文章になっているのか」については、回数を重ねていくのが一番の勉強方法だと思います。

自分の長所と弱点

「通訳基礎」では、どのプロセスも自分の学びに変えることができると考えています。その一環として、自分の長所と弱点を振り返ってもらいました。

いずれの回答にも納得しました。

●「思い込みで正しいと感じた(以前確認した)訳出を、どんな場面でも(違和感を感じずに)当てはめてしまう場面があったこと」は、以前にこの日本語の表現にはこのインドネシア語がふさわしい、と言われたのでそのまま覚えてしまい、別の訳出の方が適切である別の状況に対して、深く考えずに覚えたインドネシア語を使って訳出してしまった、という意味です。

これはよく見かけます。「一単語一対応」的な発想です。「状況に応じて考えましょう」というのはこういうことです。意味は理解していただけるのですが、実際にはこのような通訳は散見されます。

ただ、一度指摘されると、それがちぐはぐであったことに気がつくようです。その後、ちぐはぐな感じから抜け出すにはある程度の時間が必要だと思いますが、「意識する」ことが大きな一歩です。

●私は「一読で理解する」という表現はしませんが、「文章を一読で理解が出来ない」は、1回読んだだけでは意味が理解できないという意味ですね。新聞や本を読んで考える過程で養われる、通訳力の前段階にあたる力だと思います。そのような力が不十分だと気が付いたことが大事だと思います。

「あまり知識のない内容の時に、焦って単語が出てこなくなる」というのは、大抵の人に共通することだと思います。今回は時事問題としては一般的な内容を扱ったので、新聞を読む、広く浅く本を読むなどが対策のひとつになると思います。

●「カチッとした固い文章の時は翻訳もそれっぽくなっているものの、よりこなれた日本語の場合に自然な訳し方があまりできていない」というのも良くあります。

「和語・漢語・外来語」の区別で説明すると、熟語など漢語を多用すると格調高い文章になりやすく、インドネシア語でも構文理解が得意な方はここがしっかりと決まります。一方で、漢語の多用がふさわしくない内容、例えば一般人の生活に関わる話題やインタビュー相手が一般人である場合、平易な言葉を適切に使う方が自然になるのですが、これは簡単そうで簡単ではありません。

大学院生の時に先生方によく言われたのが、「中学生でも分かるように説明すること」でした。私だけでなく、同期や先輩も同じことを言われていました。難しいことを難しくいうのは簡単なこと、それを誰にでも分かるように説明するのが難しいと。

場面によって適切な表現は異なりますが、「硬い内容ならうまく訳せる」というのではなく、どのような内容でも適切に訳すことができるようにしたいですね。

●「答えは一つではないということ」。これは口を酸っぱくして伝えていることです。これが伝わっているのであれば安心です。

意識の変化

まず、回答を読んでください。

●突き詰めるべき点がいくつもある、というのは私でも同じです。

●「インドネシア人がしっかり内容を理解でき、質疑応答時に彼らから質問が出るような伝え方をしようと思います」については、少し補足します。講座の中で、ある話をしました。

ある時、2週間の研修通訳をしました。その時、担当者の方から次のように言われました。「これは2回目の研修で、1回目の研修の通訳さんも良かったんです。でも、今回の方が出てくる質問が深いんです。僕も質問したいと思うようなことを参加者が質問するんです」。

「私はインドネシア語は分かりませんが、質疑応答のやり取りを聞いていると、技術的な内容も多い中で岩田さんが講義を適切に訳されていたことがよく分かります。通訳料金が高くても、研修効果が異なることが分かりましたので、次の機会があったら是非また岩田さんにお願いします」。

インドネシア人を対象にした研修の場合、大抵は質疑応答が活発になるものです。そうでない場合は、スケジュールがハードであったり、気温を含めた環境の変化などの理由で疲れている場合と通訳が悪い場合だと考えています。この話を受けて「質疑応答時に彼らから質問が出るような伝え方」と書かれたようです。

●3つ目のコメントは引用が長くなりますので、本文を読んでいただきたいのですが、全くその通りです。適切にまとめてくださってありがとうございました。

●語彙力の強化も、終わりがないプロセスですね。日本語でもそうですが、知らない単語はまだまだありますし、新しい単語も生まれますし。私もより多くのインドネシア語に触れていこうと思います。

受講者からのフィードバック

建設的なご意見をたくさんいただき、ありがとうございました。

私からのコメントは特にはありませんが、いつもお伝えしている通り、質問で流れを止めてしまうことについては問題ありませんので、質問してください。要所要所で明確に質疑応答の時間を取ってしまうと、時間がいくらあっても足らなくなってしまうと思います。申し訳ありませんが、遠慮なく質問してください。

通訳翻訳とサイトラの分量は受講者数などにもよるので、一概には言えないのですが、通訳翻訳の分量を減らすと、それに不満を感じる方が生じるので、すべての要求を網羅することはできないもの、と考えています。ご理解いただけましたら幸いです。

この講座で得た学び

いずれも私にとって貴重なご意見です。惜しみなくシェアしてくださってありがとうございます。

3つ目の意見について、「仕事で使うインドネシア語」のアンケートまとめでも書きましたが、私はこの部分を重要視しているので、そのように理解していただけたことを嬉しく思います。

自分が指摘することは大きな学びにつながると思います。その指摘が正しい、正しくないとは別に、一度自分の頭で考え、それを言葉にして伝えるという時間を今後も大事にしたいと考えています。語彙を増やす努力などももちろん疎かにはできませんが、このやり取りが今後のそれぞれの通訳力を下支えするものになると信じています。

2024年春「通訳基礎1」

あと1人受け付けます。新規のお申込みにつきましては、レベルチェックテストなどを実施致しますので、4/14までにお問い合わせください。

今回は5回のみの実施となります。

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